第3回 イチゴジャムさん


「 ぼ く を 、 忘 れ な い で 」

自閉症の親歴8年になったばかりのイチゴジャムです。
我が家の息子は最近、さほど問題も無く、毎日元気に学校へ通っています。
学校から帰って来るとパソコンの前に座って学習ソフトでお勉強(?)
いえ、ゲームを楽しんだりCDを聞いたりするのが日課です。
昨年、息子にパソコンを壊され復旧するのに一週間もかかり、
彼にパソコン禁止令なる物を発して、触らせなかったのです。
さすがの彼も自分のしたことの大変さ(どこまで理解できたかは疑問ですが・・・)を理解したみたいで、
パソコンをやりたいと言わず、パソコンをやっているお姉ちゃんを横目で見ながらCDを聴いていました。
最近になってパソコンを解禁してあげたら毎日やっています。
やる時間を決めるのですが、その時の私とのやりとりの一例を紹介しますと・・・
私 「今日は4時までね」と少々短めの使用制限時間を言います。
息子「5時!」
私 「じゃあ、4時30分」
息子「4時45分」
私 「だめ、4時30分」と私が譲らないでいると、
息子「だめ!4時20分」
 (んっ?時間が短くなっているのが分かっていない)
私「じゃあ、4時20分までね」
息子「ハイ」
と、とっても良い返事をして満足そうな顔で「第10問クリア!」と声を上げて楽しんでいます。
そして、なんといってもすごいのは、約束した時刻になるときちんと止める事です。
拍手ものです。
パソコンが終わるとCDを聴きながら歌を歌っていますが、
その歌とは「浪速恋時雨」「二人の大阪」などの演歌もあり、我が家では大爆笑。
特にせりふで「酒だ!酒だ!酒こうてこい」と言うのはおなかを抱えて笑っています。
息子が演歌の歌番組を見たりするので、主人が「大阪の歌シリーズ」のCDをプレゼントしました。
そのCDが大変なお気に入りになり、このように今では毎日一度は聞き歌っています。
息子が演歌を好きなのは、以前、彼を一ヶ月ほど私の実家に預けたことがあり、
その時に、おばあちゃんと一緒に演歌を聴いたり歌番組を見たりして、
演歌独特の節回しなどに魅せられたのではないかと思っています。

あれは、今から4年くらい前でしょうか。
言葉が出て話せるようになったら普通の子供と同じ様になれると思っていました。
と同時に、
自閉症とは一生関わらなければならない障害であることをようやく理解し始めた頃でもあり、
自分の身に起こっている現実を受け入れ難い心情が強く、何かしら暗澹とした感じでした。
その頃、マンションの三階に住んでいたのですが、
ある日突然、階下の住人から、息子の室内で飛び跳ねる音がうるさいとクレームが来ました。
私としては、一生懸命対処したつもりですが、トラブルは収まらず、
私がイライラしているので息子の飛び跳ねは、ますますエスカレートし、全くの悪循環でした。
そんな時は冷静な判断が出来ないものですね。
結局そのマンションを引っ越すことになったのですが、
次のマンションを選ぶのに、階下(つまり上下)への音の伝わりだけに気をつけて選んだもので、
お隣さん(つまり左右)との関係については何も考慮していなかったのです。
案の定、引っ越して三日目に隣の奥さんが、怒鳴り込んで来たのです。
もう私は目の前が真っ暗。ノイローゼ状態がピークに達していました。
実家の母に電話をするとすぐに息子を連れてくるようにと言われ、
次の引っ越し先が決まるまで息子を預けることになったのです。
ときに、お姉ちゃんは既に小学生でしたので、息子だけがホームステイ(?)することになりました。
【ちなみに、息子の演歌好きは、この時の実家での体験がきっかけになったものとにらんでいます】
実家に預けに行った時のことは今でも忘れられません。
事情を話しても息子には理解できないだろうと思い、また泣かれるのが嫌で、
私は、息子が公園に行っている間にこっそりと、帰りました。
母から、『日中は元気に遊んでいい子にして泣く事もないが、夜寝る前になると「お母さん」と言って
目から一粒の涙を流してる』と、実家での息子の様子を聞いて、私は涙が止まりませんでした。
息子は、私に捨てられたと思ったのでしょうか。
今でも、実家へ行ってそろそろ帰る頃かなと思うと車の側から離れません。
眠くなると玄関で寝ます。
「僕を忘れないで」と訴えられているみたいで心が痛みます。
現在の住居では、お隣さん達とのトラブルもなく息子ともども愚かな母親の私にも、
わずかですが穏やかな日々が続いています。